２０２０年１０月

蚊、ハエ、ダニ、ゴキブリ、シバンムシ、チャタテムシ、カメムシ、真夏の不快な虫の季節は終わりに近づいたと思いきや、嫌われ者の蛾には、秋に羽化し越冬するものもいます。この美しい羽根模様を持つケンモンミドリキリガを見かけるようになると、秋も終わりに近づいたというお知らせだそうです…。
蝶に比べて胴が太く、静止のときは羽を水平に広げ、暗く気味の悪い印象ですが、じつは蝶の２０倍の多様性に富んだ魅力的な生き物だそうです。

【多様な蛾】

◇ヒメヤママユ

ヒメヤママユは、晩秋（10～11 月）に羽化する大きな蛾。羽を広げると 100mmくらい。寒い時期に羽化する種だけあり、かなり毛深く、ぬいぐるみみたいですね…。

◇異質な蛾。堕天使のようで超個性派

トリバガは枯葉のよう…。トゲトゲしていますが、凶暴ではないし毒もありません。
ツマジロエダシャクは、闇の帝王のような風格で、妖しく高貴な雰囲気が漂います。

◇綺麗な蛾

ビロウドハマキは複雑な翅模様。広げるとオレンジが目立つマニア垂涎の人気者。
ホタルガは見まがうことなく蛍の姿…。でも、昼行性。蛍と喧嘩しないように仲良く縄張りを分けたのでしょうか？
サツマニシキってお酒の名前みたいですね…。色付き蛍といった趣…。

◇蛾らしからぬ金ぴかの蛾

ゴガネムシとのハーフのようですが「蛾」です。金ぴかの翅を持ち、ゴージャス。

◇面白い名前の蛾

シャチホコの名がついている。…ということは、背中がエビぞっているのか…。

◇蝶のような蛾

翅を広げているから蛾とわかりますが、色は蝶そのもの。キンモンガは昼行性です。

◇日本最大級の蛾

翅を広げると15センチ。窓に15センチが張り付いていたら、かなり嫌かも…。

蝶の触覚は棒状、蛾の触角は櫛状や羽状。幼虫は植物食のものが多く、野菜や果樹などに被害を与えます。
じつは蝶と蛾は同じ祖先で、昼と夜に棲み分けるようにそれぞれ進化したとか。蝶の天敵は鳥、蛾の天敵は蝙蝠です。多くは夜行性で、灯火めがけて飛び回りますが、ライトに誘引されずパイナップルなどのフルーツに集まる蛾や、飛ばないで地面を歩く蛾、また昼に飛ぶのが専門の蛾、など、いろいろいるようです。
一般的に暗闇に生きる生物に色は必要ないので、洞窟に生きるものも色素がありません。なのに、色鮮やかな蛾がいる理由は未だわかっていませんが、生殖の為とか、警戒色という説があります。

【蛾眉】

中国では、蛾を夜の美しい女性に譬えて漢詩に詠んだ文化背景のせいか、蛾に対して悪感情はあまりないようです。
娥眉（がび）は蛾の触角のように細く弧を描いた美しい眉、転じて美人のことです。
白居易「長恨歌」の中に、宛転蛾眉（えんてん－がび）という美しい容姿を表す言葉が出てきます。これは楊貴妃のことで、「宛転」は三日月の形をした美しい眉、「蛾眉」は蛾の触角のように細く長い眉を意味します。

【擬態】

アサギマダラ（写真左）という蝶は体内に毒を持ち鳥に捕食されにくいので、襲われないもんね～とばかりにのんびり飛翔。それにあやかろうと、毒の無い蛾が自らをアサギマダラに似せて進化（右写真）、つまり擬態という防衛策ですが、蛾が自ら「あいつに似よう！」と判断して似るのでしょうか？そうなら、生き物って凄いですね。
そういえば、「逃げるは恥だが役に立つ」がヒットした時は、星野源さんのそっくりさんが電車にいたな…。あれも擬態なのか？でも、この場合の目的は何？同化したいというファン意識なのか？それとも、女性にもてたいという本能なのか？蛾でも似せられるなら人間だってできるさ！と見事にクローン化したのはわかったけど、一抹の寂しさが吹く…。似てもしかたなくね？

【蚕】

日本人は蛾嫌いが多いようですが、蚕は別。お蚕様と称されるほど、戦後の日本経済を支えてくれたありがたい存在でした。
蚕は中国で飼育された昆虫で、文字の歴史より古く、日本では古事記に登場します。
繭は中の蛹を守る為に殺菌性があるので、絹糸で作った服は清潔。その為、人間がシルクを求めてシルクロードまでできたのですから、道まで通してしまった蚕の吸引力たるや、恐るべし。
蚕は、昆虫嫌いでも「かわいい！」と絶賛するモフモフの昆虫だそうです。清潔感があるのでしょうね。スピルバーグ監督のグレムリンに出てきたモグワイに似ています。でも、モグワイのように繭から醜悪な怪物に変身せず、天使のままなのでご安心ください。

【モスラ】

「モスラ」は怪獣映画ですが、原作者が中村真一郎、福永武彦、堀田善衛、作詞由起こうじ、作曲古関裕而、特撮は福島県出身の円谷英二らが担当、当時の名立たる人々が大まじめに作った映画で、錚々たる顔ぶれです。戦争体験を経てようやく迎える一つの節目、オリンピック（1964年）を前に、東京は道路が舗装され、野原が消え赤とんぼがいなくなり、都電が消えていった1961年に公開されました。モスラは純粋で愛らしく「平和こそ永遠に続く繁栄の道である」というメッセージ性を込めた作品です。

【モスラのあらすじ】

1961年に登場する初代モスラはインファント島の人間や島の平和を守ろうとします。
南太平洋に浮かぶ孤島、インファント島で日米合同の調査が行われ、日本側はインファント島を保護する立場をとるものの、アメリカ側は、島の住民とモスラを媒介する小人の巫女「小美人」を二人拉致し、見世物として興行に利用する行動に出ます。「小美人」はインファント島に人間が誕生する以前から住んでいる身長約30センチメートルの双子の妖精です。
やがてモスラの卵が孵化し、モスラ（幼虫）は小美人を取り返すため、見世物興行が行われている東京を目指してやってきました。豪華客船を沈没させ、東京第三ダムを破壊し、東京タワーをへし折り、モスラの東京上陸を知ったアメリカ人興行師ネルソンは、アメリカ本国に逃亡。モスラは東京タワーに繭を作り羽化。小美人を追って渡米しニューヨークに甚大な被害を与えます。ネルソンは地元警察に射殺され、モスラは沈静化し、解放された小美人を連れてインファント島へ帰っていくのです。

【モスラの主題歌・モスラの歌】

NHK連続テレビ小説『エール』のモデル、作曲家・古関裕而氏は早稲田大学の応援歌「紺碧の空」や、阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」、夏の甲子園大会歌「栄冠は君に輝く」など、生涯に5000曲以上もの曲を手掛けたと言われます。日本初の長編アニメとして知られている「桃太郎海の神兵」（1944年）の音楽も古関氏が手掛け、動物たちが「あいうえおの歌」を歌うシーンに若き日の漫画家・手塚治虫氏は大変な感銘を受けたそうです。

その古関氏が手掛けた、怪獣映画「モスラの歌」はインドネシアの架空のインファント島の石碑にかかれていた呪文で、島の守り神であるモスラに捧げる祈りという設定です。
当時のアイドル、ザ・ピーナッツ扮する二人の小美人が「モスラヤモスラ」とデュエットするモスラを呼ぶエキゾチックな曲は、現代にも通用する普遍性を持ち、全く古さを感じさせません。
その摩訶不思議な呪文の歌詞は脚本家の関沢新一氏、本多猪四郎監督、田中友幸プロデューサーの共作によるもの。（作詞者の由起こうじは3人の共同ペンネーム）日本語の歌詞を、インドネシアからの留学生にインドネシア語に翻訳してもらったそうです。

「モスラヤ　モスラ　ドゥンガン　カサクヤン　インドゥムゥ　ルスト　ウィラードアハンバ　ハンバムヤンランダ　バンウンラダン　トゥンジュカンラー　カサクヤーンム」
（モスラよ／永遠の生命　モスラよ／悲しき下僕の祈りに応えて／今こそ　蘇れ／モスラよ／力強き生命を得て　我らを守れ　平和を守れ／平和こそは／永遠に続く／繁栄の道である）

【戦争とモスラ】

人気作曲家だった古関氏は、戦時中はたびたび戦地への慰問を要請され、中国、台湾、シンガポール、ミャンマー、マレーシア、タイ、ベトナムなどを廻っています。
「勝ってくるぞと勇ましく」でお馴染みの「露営の歌」など、自分が作った多くの国威発揚歌が若者を戦地に駆り立てたと深い自責の念にかられ、戦後は再び作曲を通して自らの心も救おうとしていきます。
古関氏自身も戦争末期に徴兵され、作詞を担当した脚本家の関沢氏も本多監督も、戦地からの帰還兵でした。戦争体験が投影された「モスラ」は、日本人が南方に抱く楽園と平和への願いが込められています。

【モスラが後世に与えた影響】

東映動画（現・東映アニメーション）に勤めていたアニメーション作家・宮崎駿監督も、『モスラ』を劇場で観て、強い影響を受けています。宮崎監督のオリジナル監督作『風の谷のナウシカ』（1984年）に登場する王蟲（オーム）は、モスラの幼虫に様々な意味で、よく似ています。

モスラが守るインファント島は、核実験による放射能汚染から免れたという設定であり、「風の谷のナウシカ」では「火の７日間」の戦争で汚染された腐海の森が有毒な気を放ち、人間に害を与えているかのようにみえますが、実は自然を浄化し再生させる力を持っています。今現在、世界を揺るがしているコロナも、自然界からのメッセージなのかもしれないという視野も、一面、必要なように感じます。※初期「モスラ」もレンタルで鑑賞可能です。

この記事のタグ：

縁結びの地・奥出雲で採れた天然水「仁多水（じんおおすい）」の公式ネットショップ