２０２１年２月

春を迎える迎春、本当の意味での新年の始まりにあたる「節分」は立春の前日で、長きに渡り「2月3日」がその日に当たりました。けれど、今年2021年の「節分」は、明治30年（1897年）以来、124年ぶりに「2月2日」になります。

　季節は、春分や秋分といった二十四節気（および雑節）に分けて、その変化を表現しています。季節が変化する理由は、地球が傾いた状態で公転しているためです。
　地球が太陽の周りを1周すると1年ですが、1周にかかる時間は厳密には365日ではなく365日と約6時間。この僅かなズレを調節するためにうるう年がありますが、地球が立春の位置を通過する時間単位で見ると僅かにゆらぎがあるため、立春の日が前後します。それにあわせて、前日の節分も動くことになるので、「2月4日」や「2月2日」になります。2022年に節分は「2月3日」へ戻りますが、2025年から4年ごとに再び2月2日が続き、今世紀末にかけて頻度が増えていくようです。

【福豆】

京都・末富の福豆は、一粒、一粒、手で丸めて炭火で焼き上げたお菓子です。桝を包む掛紙は宝船（池田遙邨画伯筆）に、前から読んでも後ろから読んでも、同じおめでたい回文が書かれています。

【初夢】

「なかきよのとおのねふりのみなめさめ　なみのりふねのおとのよきかな」
「回文歌」は「初夢」「宝船」文化の名残りといわれ、正月の２日、もしくは旧正月｛立春前後、新暦での2月頃｝の夜、宝船図と、この回文の組合せを枕の下に敷いて寝ると、良い初夢が見られるという言い伝えがあります。江戸時代には、正月早々に「お宝、お宝」と歌が書かれた宝船の絵を売り歩く「宝船売り」がいて、人々は買いに走ったとされます。悪い夢を見てしまった場合は、その船を川に流すことで水に流して邪気払い、縁起直しとしました。

「なみのり（波乗り）」と「みのり（実り）」、「とおの（遠の）」と「とおの（十の）」、「長き夜」と「長き世」、「船（宝船）」と「不音・ふね（静か）」が掛けられ、音や意味の言葉遊びが随所に用いられています。
（長き夜の遠の睡(ねむ)りの　皆目醒(めざ)め波（冊・なみ）乗り舟の音の良きかな）
（永き世の　十の睡りの　皆目覚め　儺（な）稔り（みのり）舟の　音の慶きかな）

この歌が書かれた七福神の宝船の絵を枕の下に置いたり、歌いながら歌を書き記した千代紙を帆掛け船の形に折って枕の下に置きますが、七福神や宝船、お多福など、良い夢を見させてくれそうなアイテムはどこにあるのかなと戸惑うかもしれません。けれど、絵葉書や神社の絵馬、代用できるものは、いろいろありそうです。

【日本最古の宝船図】

年に一度、京都五條天神社では節分の日だけ「日本最古の宝船図」「うけら」「勝餅」が授与されます。うけらは（若芽が食用になるキク科の草）、火にくべて節分の豆を煎って食べるとよいとされます。

節分に授与される宝船の古図は日本最古のものといわれ、船に稲穂を一束乗せただけの簡素な図案です。当初はこの宝船図、毎年宮中及び親王や公家にのみ献上されていましたが、大正時代中頃から一般にも配布するようになったようです。この宝船は厄除け・病除けのご利益があるといわれ、一年つつがなく過ごしたい人々に人気です。
（※五條天神社は、かつては天使の宮、天使社と呼ばれていたそうですが、神社北側の松原通が五条通と呼ばれていたことから、五條天神社となったそうです。東京の上野公園の中にも、医薬祖神・少彦名様をご祭神とする五條天神社があります。こちらでは、平安時代の古式にしたがい、儀式の間中「うけら」を焚き邪気を祓いながら、節分祭、蟇目式（ひきめしき）、病鬼との問答、豆まきの順に、新春を迎える「うけらの神事」が行なわれてきました。）

【日本橋　榛原　絵葉書「七福神」＜柴田是真＞】

榛原は、東京・日本橋で二百年以上つづく和紙舗です。親交の深かった幕末の絵師・柴田是真（1807～1891）の筆による「七福神」が絵はがきとして復刻。見事に、宝船図と「なかきよのとおのねふりのみなめさめなみのりふねのおとのよきかな」の回文の組合せになっています。

【七福神の絵馬　小網神社】

豊穣の神「大黒天」、商売繁盛「恵比寿様」、学芸の女神「弁財天」、勝負事「毘沙門天」、家庭円満　「布袋様」、長寿を授けて下さる「壽老人」。国や宗教を超えて集まり、福を下さる最強の神様「七福神」への信仰は江戸時代から大きく、人々の生活に根を降ろしていきます。

厄除け最強スポットといわれる小網神社（東京日本橋）の七福神様の絵馬は、良い夢観にもご利益がありそうです。

第二次世界大戦の時、赤紙が来て出兵前に小網神社に赴き御守りを授かって戦地へ向かった兵士は、なんと全員が無事に生還。さらに東京大空襲で一面火の海に包まれても、この神社は焼失することなく全てが無事。。。となれば、最強厄除のご神徳にあやかろうと、平日でも多くの人が列をなして参拝しています。
社殿の彫刻は力強い龍神様。天に上る登り龍と天から降りる降り龍が強運厄除けのシンボルです。

小網神社の始まりは、西暦1,000年頃、恵心僧都（けいしんそうず）が開かれた観世音様と弁財天様を祀る「万福庵」（まんぷくあん）です。
悪疫が大流行していた1,466年頃、この万福庵に「海で網にかかった稲穂」を持った、一人の老人が訪れます。「万福庵に来られたご老人を稲荷大神として祀れば、村の悪疫が消える」と、当時の庵主は、万福庵の開祖・恵心僧都からお告げを受けます。すでに老人の姿はありませんでしたが、これを神事として小網稲荷大明神を創建し、悪疫封じ祈願すると見事悪疫は沈静化したそうです。

【畳縁で作った小銭入れ　紋様は宝船】

畳を作る時に余った畳縁を使用した小銭いれ。
畳縁は丈夫なので沢山のコインをいれても耐久性があり小銭入れには最適で見事な廃材利用です。でも、こんな洒落た宝船紋様なら、回文歌を入れて枕の下に忍ばせたくなりますね。

【コインアート】

「コイン手芸（５円玉アート）」は、金色の５円玉や銀色の５０円玉、穴の開いた硬貨を糸でつなぎ合わせて、打ち出の小槌や亀、宝船といった縁起物を作る手芸は、多くの人に愛されてきました。
右の鎧武者は、武俊彰さんが小学生の時、お小遣いを５円玉に変えて作った作品ですが、３０年も経ち、この作品を解体することにしました。大きさは５０～６０cm、硬貨の枚数は２千枚弱。硬貨を１枚１枚つなぎ合わせる作業は、小学生にとって想像以上に大変だったことでしょう。しかも、普通であれば硬貨を磨いてから使いますが、武さんは鎧兜のリアル感を出すために腐食液に浸し、あえて古銭のようにしたという凝りよう。
「力作なのにもったいない」と解体を惜しむ声が多かったようですが、５円玉を繋いでいる糸が経年劣化でボロボロになってしまったため、ご自分の手で解体することにしたそうです。
「コイン手芸」にハマったのは小学校高学年。お母さんと手芸店を訪れた際、コイン手芸の本を手に取ったのがキッカケで、それ以来、コイン手芸にのめり込んでいきました。この見事な作品の解体は、お母様とも相談して決めたそうです。作品はなくなっても、幼い頃の思い出は心に残り続けることでしょう。

【梅津長者物語（貧乏でも心やさしき夫婦の元に七福神がやってきた）】

山城の国の梅津にいた夫婦は、働いても働いても貧乏で、食べ物は、野山で採れる木の実やイモばかり。それでも２人は正直者で、人には大変親切だった。
ある日、亭主は芹を摘みに行く途中、1人の尼さんが道に迷っているのに出くわした。京都に行く道順を教えているうちややこしくなり、とうとう都が見える所まで尼さんをおぶって行った。尼さんは、親切にしてもらったお礼に１文銭を渡した。滅多にお金を手にしたことのない亭主は喜んで家に帰り女房に渡した。女房も大喜びで、もう何年も口にしていない餅を2つ買いに行った。
ところが、帰り途、乞食のような汚い身なりをしたお爺さんに呼び止められた。もう5日も何も食べていないと言って、お餅を1つ恵んでほしいと言われた。女房は、自分が貧乏なのも忘れて、このお爺さんにお餅を１つ分けてあげた。結局、１つのお餅を2人で半分に分けて食べることになったが、お餅をあげてしまったことを悔やむわけでもなく、久しぶりのお餅を2人でおいしく食べ、その日はいい気分で床についた。
するとその晩、2人の夢の中に恵比寿様が現れた。これからは夫婦の家を我々が守ると言い、七福神の神様が集まり、夫婦を囲んで賑やかな宴会が始まった。ここで夫婦は、夢から目が覚めた。何だ、夢か？と思ったが、正夢だったようで、それから2人は何をやってもうまくいき、梅津の長者と呼ばれるまでになりました。

【「福」の漢字】

偏の、「示」は神様の祭卓の形を表し、神事全般を意味します。
旁（つくり）は、下部がふくれた樽の形を表し、ふくれ、満ちる意味があります。
つまり、「福」という漢字は、神様からの恩恵に溢れた状態を意味しています。
また、この「福」は、一説では、命を繋いでくれたご先祖様の事をさすとも言われています。

【福は内】

思わず笑みのこぼれるお多福さんは、鶴屋吉信の「福はうち」。箱の中から楽し気な笑い声が聞こえてきそうです。

【日本橋　榛原　絵葉書　「百福」＜河鍋暁斎＞】

こちらもたくさんのお福さん。お茶を点てるお福さん、書を書くお福さん、髪を結うお福さん。皆、優しい穏やかな微笑みをたたえています。日々の営みを、楽しげに優しく描いたこの画は、普段の生活の中にこそ幸福が隠されている事を教えてくれているようです。

【百福図】

「百福」はもともと中国の言葉で、文字通り「たくさんの福」という意味です。中国では古くから「百福図」があり、「福」という字を100種類の字体で書いた掛け軸を家に飾っておくと、特別な福がもたらされると信じられています。
「百福図」は、古来から伝わる篆書体（てんしょたい）の「百福」を百種選び揮毫したもので、縁起物として広く大事にされてきました。
※現在一般的に使われている漢字が発展してゆく過程でできた篆書体は、中国の紀元前の王朝西周～秦の時代に公文書に使われていました。現在は印鑑や観賞用の書体として使われています。

【安藤百福氏】

今でも、中国では百福は縁起の良い名として、店の屋号に使われることが多いようです。
中国のソウルフードである中華そばを「インスタントラーメン」として日本に誕生させたのが、安藤百福(ももふく)さん（日清食品の創業者）。これも、運命に導かれての必然だったのかもしれません。（※　画像は「チキンラーメン」の初期パッケージ）

【逆さ福】

中華料理店に時々ある「逆さに貼ってある福」。中国語で「福」を逆さにすると「倒福 dao fu」となります。この「倒dao」と「到dao」は同じ音で、「やってくる」を意味するので、逆さになった「倒福」は「福がやってくる到福」という洒落です。

【回文】

言葉遊びの文化は、日本も負けてはいません。
「むらくさに,くさのなはもしそなはらは,なそしもはなのさくにさくらむ」
（村草にくさの名はもし具（そな）はらはなそしも花の咲くに咲くらむ）
「おしめとも　ついにいつもとゆくはるは　くゆともついに　いつもとめしを」
（惜しめともついにいつもと行春は悔ゆともついにいつもとめしを）

これらは有名な回文和歌ですが、「竹やぶ焼けた」も回文です。「たった今、春告げ鶴は、舞い立った」という風流なものもあります。
現代では「すきのしるしのきす」「年末はつまんね」「いたいけな携帯」「イカした歯科医」「気だるき一日、生きるだけ」「カッコイイ国家」「リモコンてんこ盛り」「旦那もホモなんだ」なども誕生して時代を反映。未来の人は令和の歌を見て、こんな時代だったのかと唖然とするのでしょうか。
英語の回文もあります。「 Madam, I’m Adam 」「 No, lemon, No, Melon 」「Panda had a nap
（パンダの居眠り）」
そして、回文を取り入れた音楽もあります。J.S.バッハの音楽やハイドンの交響曲第47番,モーツアルトの逆行カノンなど,楽譜読むとメロディが回文になっている作品もあり、回文は一定のリズムとして理に適っているのでしょう。

「やっても解けない。泣けども徹夜」「すまねぇ、寝ます」「スマイルくんだんだん狂います」「撤退か和解かって」ここら辺になると、考えたのは受験生？
数式の回文もあるようです。「142+382×567＝765×283+241」イコールを区切りとして、左右対称で、左辺と右辺のどちらの計算結果も「216736」になっているのがお見事！「1234＋8765＝5678＋4321」これも、どちらも9999という計算結果です！
追い込みの時期、こういうムダな事を思いつく気持ち、よくわかります。 🌸合格をお祈り申し上げます🌸

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