２０２１年４月

桜前線が発表されると、心が浮き立ちます。どんな時代の流れの中でも、巡る季節の確かさは、不思議な安堵感をもたらしてくれます。桜色に染まりゆく日本列島は、殊の外、日本人の琴線に触れるようです。「さくらさくら♪」「春のうららの隅田川………われにもの言う桜木を♪」と多くの歌に歌われ、100円硬貨のデザインにも使われている桜は、私達日本人の心の花なのかもしれません。この桜の神様が「コノハナサクヤヒメ」富士山の神様です。

「しき嶋のやまとごころを人とはば　朝日ににほふ山ざくら花―本居宣長」　
お前の姿形はわかったが、では心について尋ねたい、と宣長は自らに問い自らに答えます。
「日本人である私の心とは、朝日に照り輝く山桜の美しさを知る、その麗しさに感動する、そのような心です」

あなたのお気に入りの桜は、どこの桜ですか？被災地の跡地に咲いた桜は、多くの人を励まし、生きる希望の灯となりました。
人生には上り坂、下り坂、そして「まさか」の坂があるといいます。震災や水害、コロナなど、まさかの坂を多くの人が経験され、辛苦を味わった方も多いのではないでしょうか。
けれど、もう一つの坂があるのをご存知ですか？それが、弥栄（いやさか）の坂です。弥栄とは、一層栄えることです。辛い出来事を通して、人間は本当に大切なものが見えてくるようです。そして、困難な坂を越えることで、ようやく地に足のついた人間として、豊かに生きていくことができるのかもしれません。
人生の節目に見た桜の美しさを、来年も再来年も、どんなに苦しい時も、弥栄の坂に辿りつく時まで、忘れないでいてほしいと思います。

【さまざま桜】

桜は靖国神社の象徴ともいわれます。千鳥ヶ淵の桜は花弁の色も薄く清廉潔白、一斉に咲いて一斉に散る整然さがあり、軍国主義や同期の桜を最も想起させる桜です。
このソメイヨシノが枯淡にして潔く感じるのは、雌蕊が退化して実がならないので、接ぎ木で増やしてきたからなのかもしれません。アメリカのワシントンDC、ポトラック湖畔、世界中にソメイヨシノは何十万本あれど、全て接ぎ木で増やされたので同じ遺伝子を持つ木になり、同じ地域では同じように気温に反応して咲く時も散る時も一緒になります。だから、各地の開花予報、桜前線を正確に描くことができるのです。
それに比べ、実が生り、種で増える桜は、自力で繁殖していくせいか、妖気を放つものさえあるように感じます。

京都御苑の糸桜は多く詩に詠まれてきました。枝垂桜の一種ですが、ソメイヨシノよりも小ぶりの花を咲かせるそうです。1855年に、孝明天皇が糸桜を初めてご覧になった時、「昔より名には聞けども今日見ればむべ目かれせぬ糸桜かな」と、目が離せないほど美しいと称えています。

薄墨桜、さきがけ桜、桃桜、衣笠さくら、一葉桜、御室桜、しだれ桜、左近の桜、本来、桜は寿命があまり長くないので名所の桜は、元気なうちに後継ぎを用意。私達は先代の種から育てた二代目、三代目を目にしていることも少なくないようです。

【山に燈る山桜】

「浮世から何里あろうか山桜」これは、剃髪して僧籍に入り山中に隠遁した山本常朝の句ですが、山中の奥深くに佇む山桜は、誰の目に触れることなく、それでも花を豊かに灯している、その崇高な命に圧倒され、思わず息を呑む、そんな情景が浮かんできます。

【花見酒】

大きなしだれ桜の下は、そこだけ空気がひんやりした別世界で、桜の精と交信できそうな異空間です。今年は桜の下、朧月夜を眺めつつ、散華と散った英霊の方々を偲び、静かに盃を傾けませんか。
※靖国神社の桜のお神酒（中央）は、以前はピンクの瓶で上から見ると桜の花の形をしていました。2021年以降はボトルデザインが変更、右端のものになっています。

【さくら陶板】

我國の為をつくせる人々の名も　むさし野にとむる玉かき（明治天皇御製）
「さくら陶板」が建立された外苑東北部は、ご遺族・戦友等からの献木が林立し、「常陸丸殉難記念碑」や「慰霊の泉」が点在する場所であり、2019年に創立150年記念事業として、本殿への参拝をいざなう空間「慰霊の庭」として新たに整備されました。

靖國神社の象徴「桜」を模り、慰霊を込めて制作された陶板一枚一枚は、御祭神が往時歩まれたであろう故郷の土を用い各地の特色ある風土を色彩や風合いで表現しています。

この「みちしるべ」である陶板に導かれ、慰霊の泉や、戦地の石を見ながら、御祭神への慰霊の心を整えて、本殿でお参りできるようになりました。47都道府県、各陶板の台座には国の礎となられた戦歿者の神霊をお祀りする各地の護國神社名・御鎮座地を記し「遺族の心」を未来へ繋ぐ各都道府県遺族会の名称も記されています。

【慰霊の泉と戦跡の石】

戦没者の多くは故郷の母を想い清い水を求めながら息を引き取りました。この彫刻は清らかな水を捧げる慈愛に溢れる母を象徴的に表現したものです。そして、背後には第二次世界大戦激戦地の戦跡の石を収集して展示しています。

【桜色】

子どもの頃、女の子という理由で無理やりピンクばかり着せられたので今は大嫌いという人もいるほど、昔は女性の色で、男性が最も敬遠する色でした。でも、最近は上手にピンクを取り入れている男性を見かけます。
色は心に影響を与えますが、ピンクは緊張を和らげ、攻撃的な気持ちを鎮める効果があり、人に与える印象はとても良いようです。喧嘩ばかりのカップルや、職場がイライラしているなら、ピンクを取り入れて雰囲気を和らげるのも手かもしれません。

【はんなり】

「はんなり」の語源は「花なり」「華あり」で、はんなりした姿や立ち振る舞いは、桜をイメージするそうです。散る花の美しさ、せつなさ、白に近い奥ゆかしい桜色、遠目でみる桜、夜桜、見上げる桜、様々な表情に富む、じつに不思議な花だと思います。

【春色ルージュ】

今年はコロナ禍の中での就活や受験、大変な苦境を乗り越えスタートを切った人も多いでしょう。新生活の買い物など、何でも手に入るネット通販は便利ですが、女性の場合、意外と大事なのが口紅。デパートで買う一本は高価ですが、優秀なアドバイザーさんに、顔色に合ったトレンド色を選んでもらえます。節目の記念にもなる春色ルージュ、一つ奮発してみては如何ですか？
化粧品メーカーの中でも、DIORの口紅は、色が豊富でネーミングも面白いのが特徴。ピンクでも、ADORÉ（崇拝・熱望）のPINKとかOSÉ（拒絶）のPINKなど、映画の一場面を連想させるほど豊かな色彩です。メイクアップクリエイティブを務める色の魔術師たちが、毎年のトレンド色を発表、女性の唇を花のブーケで飾ってくれます。その発色は奥行きがあり、不思議な世界観を見せてくれます。

昨年はコロナ禍で百貨店もクローズし、街の灯が消えたようで寂しく思った人もいたのではないでしょうか。デパートは、普段とは違うハレの場で、開けると普段見たことのないキラキラした物が、たくさん詰まっている「街の宝石箱」です。苦しい時を乗り越える為にも、人は無意識にくすんだ日常とかけ離れた場を求めるようです。戦後すぐも、人間の醜い一面を見る時代だったからこそ、人は色鮮やかなもの、美しいものを切望し、灰色の現実から飛び出そうとしたのです。
昨年、世界を震撼させたコロナ禍では、効率主義の中でくすんで廃止論まで出た大学の人文系が人間の底力を引き出し、生きようという力、自殺を思いとどまらせる力にもなり得ると再認識されました。文化や芸術にとどまらず、美しいものは心に豊かに働きかけ、生命力を喚起させる力があるのだと思います。

この記事のタグ：

縁結びの地・奥出雲で採れた天然水「仁多水（じんおおすい）」の公式ネットショップ