2018年10月

旧暦１０月に全国八百万の神々が出雲（島根県）に集まり、諸国に神がいなくなることから「神無月」、出雲では逆に「神有月・神在月」。
実際「有」という地名が松江にあり、十と月を合わせると「有」になるので、俗説ではなく神々が里帰りされ、重要な会議を開いて来年の予定を打ち合わせする月のようです。
（出雲に来ずに、留守を守る神様もおられるそうです）

神々が集う出雲では「神迎祭」、そして「神在祭」、最後に神々をお見送りする「神等去出(からさで)祭」が行われます。

＜神迎神事・神迎祭　旧暦１０月１０日（平成３０年１１月１７日（土）19時～）＞

出雲大社の西方１ｋｍにある稲佐の浜で、神々をお迎えする神迎神事が行われます。
夕刻７時、浜で御神火が焚かれ、注連縄が張り巡らされた斎場の中に神籬(ひもろぎ)が２本、傍らに神々の先導役となる龍蛇神が海に向かって配置されます。
　神事が終わると、神籬は両側を絹垣で覆われ、龍蛇神が先導となり、高張提灯が並び奏楽が奏でられる中、浜から出雲大社への「神迎の道」を行列が続きます。
　この後、出雲大社神楽殿において「神迎祭」が執り行われ、これが終わると、神々は旅(宿)社である東西の十九社に鎮まられます。

＊神迎えの道

＊「潮汲み」とおもてなし

大社町では、古くから稲作の浜で海水を汲んで、清め払う風習を、毎月１日に行います。神迎えの道では、潮汲みに用いる竹籠に季節の花を活けます。

＜神在祭　旧暦１０月１１・１５・１７日（平成３０年１１月１８・２２・２４日＞

全国の神々は、旧暦１０月１１日から１７日の滞在される７日間、神事(幽業、かみごと)、すなわち人には予め知ることのできない人生諸般の事、縁結びや来年の収穫、酒造りなどを、出雲大社西方９５０ｍに位置する出雲大社の摂社「上の宮(仮宮)」で、神議り(かむはかり)にかけるといわれます。
また、御宿社(神々が宿泊する宿)となる出雲大社御本殿の両側にある「十九社(じゅうくしゃ)」で、連日、お祭りが行われます。

＊お忌祭

地元、出雲の人々は、この祭事期間、神々の会議や宿泊に粗相がないように、歌舞を設けず楽器を張らず、第宅(ていたく)を営まず(家を建築しない)、静粛を保ち、謹んで暮らすことを旨とするので「御忌祭(おいみさい)」と呼んでいます。

＜神等去出祭　旧暦１０月１７日（平成３０年１１月２４日）＞

夕刻４時、出雲大社境内にある東西の十九社にあった神籬(ひもろぎ)が絹垣に囲まれて拝殿に移動されます。拝殿の祭壇に２本の神籬、龍蛇、餅が供えられ祝詞が奏上された後、１人の神官が本殿楼門に向かい門の扉を三度叩きつつ「お立ち～、お立ち～」と唱えます。この瞬間に神々は神籬を離れ出雲大社を去られます。

＜出雲から松江へ＞

出雲大社の神在祭が終わると、引き続き松江の佐太神社で神在祭、神々の神議り(かむはかり) が行われ、斐川町の万九千神社より神々はそれぞれの国へ還られるといいます。
佐太神社の「さた」を沙汰にすると、砂をより分ける意となり、一般でも、物事の善悪・是非などを論じ定める裁定の意味がありますので、神議り(かむはかり)を無事に終了され、お立ちになるのかもしれません。

＜万九千神社からお立ち＞

万九千神社では、夕刻、御神前で、八百万神に出雲からのお立ちの時が来たことを奉告する「神等去出祭」（からさでさい）が厳かに行われます。神事では、宮司が幣殿の戸を梅の小枝で「お立ち」と三度唱えながら叩く特殊な所作をします。近世の記録や伝承によれば、この神等去出祭は、かつて神社の南方約数十メートルの地点にあった、屋号「まくせ」と呼ぶ民家の表座敷で湯立神事を伴うものだったとか、古くは社頭の東南に仰ぎ見る神名火山（現・仏経山）の麓で火を焚いて神々をお送りしたとも伝えられています。

この晩、神々は当地において直会（なおらい）と呼ぶ酒宴を催し、明年の再会を期して、翌朝早くいよいよ各地の神社へと帰途につかれます。鎮座地周辺の地名「神立」（かんだち）はこれに由来するようです。
神々のお立ち「からさで」の日は、北西の季節風が吹きすさび、雨や雪、霙（みぞれ）まじりの荒天になることが多く、「お忌み荒れ」「万九千さん荒れ」と、人々は神威を実感しつつ、神罰があたらないよう畏れ慎み、静かに寝床について、神々をお送りする風習が伝えられます。

＊神等去出祭　旧暦１０月２６日（平成３０年１２月３日）

出雲大社では旧暦２６日にも神等去出祭を執り行います。この祭典は神様が出雲の地を去られたということを大国主大神に報告する儀式で、本殿前で神官一人が行う小祭です。

＜神集いの理由＞

神社により様々で、また同じ神社でも時代によって、その考えは異なるようです。

大国主大神が天照大神に「国譲り」をなさった時、「私の治めていますこの現世(うつしよ)の政事(まつりごと)は、皇孫(すめみま)あなたがお治めください。これからは、私は隠退して幽(かく)れたる神事を治めましょう」と申された記録があり、目には見えない縁を結ぶ「幽れたる神事」を治める為に、出雲に全国の神々をお迎えする神集い説が生まれたようです。

また、神集いの最大の理由は諸神の親神にあたる伊弉冊尊様とする説があります。
伊弉冊尊様を祀る神魂神社では、伊弉冊尊様が崩御された１０月、神々は母神様を偲ぶ孝行の為、埋葬された出雲に集まると考えています。伊弉冊尊様を祀る熊野大社などでも法要の為に参集されるという考えを基に、神在祭が行われています。

かつての佐太神社もその考えでの神在祭でした。（佐太神社、神魂神社、熊野大社周辺には、伊弉冊尊様の埋葬地としての比婆山伝承地があります）
佐太神社は、伊弉冊尊様の陵墓である比婆山（ひばやま）の神陵を遷し祀った社と伝えられ、旧暦十月は母神である伊弉冊尊様を偲んで八百万の神々が当社にお集まりになり、様々な神事が執り行われることから「神在の社」と信仰を集めてきました。
（佐太神社の主祭神は明治になると佐太大神に戻る為、神在祭は神々が集って新穀を捧げたと出雲国風土記に記されるカンナビ山祭にその起源が求められるようになり、新（神）嘗祭（その年の収穫を祝う祭）の為の神集いに変容し、また、秋の新嘗祭に対し、春に豊作を祈る祈年祭も想定され、佐太神社のみ４月（現在は５月）に神在祭（神在祭裏月祭）が１０月（現在は１１月）とほぼ同じ内容で行われています。

＜神在祭を行う神社＞

出雲大社（出雲市大社町）、日御碕神社（出雲市大社町）・朝神社（出雲市朝山町）・万九千神社（出雲市斐川町）・神原神社（雲南市）・佐太神社（松江市鹿島町）・神魂神社（松江市大庭町）・多賀神社 (松江市) ・熊野大社(松江市八雲町)

＜神在（じんざい）餅とぜんざい＞

出雲地方では、全国から神が集まるという神在祭の最後にあたる、神々をお送りする神等去出（からさで）の日、神前に供えていた餅と小豆を一緒に煮て小豆雑煮を作り供えていました。これが「神在餅（じんざいもち）」で、今も宮司宅ではこの日、小豆雑煮を作り、お供えします。昔は里人の間でもこの日の朝に餅を搗き参拝する慣わしがあり、一重ねのオカガミ（餅）を持って参った後、小豆を入れた雑煮餅を作って家の神棚に供えてた後、銘々も頂く風習があったようです。
この「神在餅」が転化して「ぜんざい」となって、室町時代には京都、そして江戸時代の江戸へと、伝わっていきました。

■甘くないぜんざい

島根県・出雲に伝わる「小豆雑煮」は「ぜんざい」のようですが、甘くないだし仕立て。だしの旨味と小豆本来の甘さを味わう小豆雑煮を食べるのは、主に島根県の海岸部で、新潟や石川、京都や兵庫の一部でも食べられています。お餅は、西日本ならではの丸餅。一般に東日本は焼いた角餅、西日本は茹でた丸餅をお雑煮に入れるようです。

★島根・出雲　小豆汁（２人分）

材料）茹で小豆 … 200g　丸もち … ４個　生姜の千切り … 少々　だし … 800cc　塩 … 小さじ２　薄口醤油 … 小さじ１弱
１. 茹で小豆とだしを鍋に入れ、火にかけ、温まったら塩、醤油を加えて調味します。
２. 別な鍋で丸もちを茹でます。柔らかくなったらアミですくい、１と一緒にお椀に入れます。千切り生姜を入れてできあがりです。

■夫婦善哉（めおとぜんざい）

ぜんざい一人前を、２つの椀で出すことから、夫婦善哉。
大阪・ミナミ。法善寺横丁で赤提灯を提げている老舗甘味店「夫婦善哉」の、店名と同じ看板メニュー「夫婦善哉」。
丹波大納言小豆をじっくり煮込んだコクのある粒餡の汁に愛らしい白玉が入っています。口直しの塩昆布が添えられ、二人で食べると円満になれると、言われています。
昭和に活躍した大阪の作家・織田作之助が、この店や法善寺を舞台にして小説「夫婦善哉」を書きました。

■ぜんざいと「お汁粉」の違い

関西では粒餡で汁気があるものが「善哉」。こし餡で汁気があるものを「お汁粉」。汁気のない粒餡は「亀山」「小倉」。
関東では汁気があれば「お汁粉」、粒餡は「田舎汁粉」「小倉汁粉」、こし餡は「御膳汁粉」。汁気がない餡に餅や白玉を添えたら「善哉」、夏は冷たくしたものが好まれます。
（＊江戸時代、京都・大阪では「専ら赤小豆の皮を取らず、黒糖を加え、丸餅を煮たのが善哉。皮を取った物は汁粉」江戸では、「赤小豆の皮を取り、白糖の下級品あるいは黒糖を
加え、切り餅を煮たのが汁粉」と、文献に残っているようです）

■出雲の「ぜんざい」と「しるこ」

懐中しるこは、江戸時代に開発されたインスタント食品。懐中、すなわち”ふところ”に入れて持ち歩いたところから、その名が付きました。
最中の皮を利用するのでビニール要らずでエコ、香ばしい風味も加わり、腹持ちの良い具にもなって良いこと尽くめ、現代よりも自然に則した合理性に裏打ちされているのでは？
この「ぜんざい」「汁粉」の類は、根強いファンがいるのでしょう。今も新しいレトルト商品が市場に参入してきているところを見ると、ニーズが沢山あるということですね。
レトルトは、電子レンジで温めればすぐ食べられる手軽さと、好みで餅を焼いたり、アレンジできるところが魅力です。
また、全国どこの老舗菓子司でも、即席汁粉、懐中汁粉のようなものを通年販売していますが、ぜんざい発祥の地、出雲の国で作られてきた本家本元の「ぜんざい」を外すわけにはいきません。

そこで、神話の国ならではのレトルト、２種類の「出雲ぜんざい」。どちらも、縁起がよさそうで福を呼び込む感じがしますから、ちょっとしたご挨拶にもいいですね。老舗の風格を、ぜひとも、楽しんでみて下さい。

■原寿園の「出雲ぜんざい」「おこげぜんざい」

1911年創業の茶老舗店・原寿園が手掛けるレトルトパウチのぜんざい。
北海道産大納言小豆に奥出雲仁多米で作った紅白の丸餅が入っています。
冬期限定「おこげぜんざい」は、パリッパリのおこげと、レトルトパウチのぜんざいのセット。

■坂根屋の「出雲ぜんざい」

1872年創業、宿禰餅で有名な菓子司・坂根屋の「出雲ぜんざい」は、出雲産大納言小豆と出雲産の米で作った紅白餅を使った風味豊かなぜんざいです。

お次は、変わり種の「お汁粉」２種。どちらも松江の老舗の菓子司・風流堂が手掛けているのが面白いですね。「ぜんざい」発祥の出雲の国・島根に根ざした独自の文化を窺い知ることができます。

■松江風流堂「日本海」

この店の先代が日露戦争に出征し無事帰還、日本の大勝利を記念して「日本海」という名前の即席しるこを作成。そして、日露戦争から１００年後、４代目が復刻版として蘇らせたもの。
お湯を注ぐと、立ち上る甘い香りの中から、ロシアと日本の国旗が浮かんできます。（当時は、お椀の中で、日本国旗（煎餅）はいつまでも浮き続け、露西亜の旗（餅）は水分を含んで沈んでいくと洒落こんだ画期的商品でした）当時の愛国心や戦争への考え方が反映され、拍手喝采、大評判になったのではないでしょうか？
復刻版は、日本もロシアの旗も共に煎餅でできていますから、仲良く、いつまでも、ぷかぷかと、お椀の中で浮き続けるようです。
説明書も日露戦争の戦局を伝える当時の号外のデザインで、レトロな雰囲気を満喫できますし、この“日本海”、即席と侮るなかれ、コクもあり、しっかりした餡の味のするお汁粉です。

■妖怪しるこ　風流堂　

鳥取県境港市の妖怪タウン、水木しげるロード「鬼太郎はうす」で売られている「妖怪しるこ」。
こちらも、あの老舗「風流堂」が大真面目に作っている甘さ控えめなお汁粉なのです…！

♫ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲー　朝は寝床でグーグーグー　と歌いながら、人魂印を上にして、お湯を注ぎ、
♫楽しいな、楽しいな、おばけにゃ学校も試験も何にもない　数秒待つと…、薄～いお餅、一反木綿がふわっと浮いてきます。

更に♯おばけにゃ、会社も仕事も何にもない　おばけは死なない、墓場も何にもない♫♫と歌い終われば、おおっ！こっちは目玉おやじだ…。

この力の入れよう…、汁粉への情熱は、やはり、他県に類を見ない…。

この記事のタグ：和菓子、仁多水

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